当会は一刀流中西派の組太刀稽古を中心に行いますが、竹刀稽古も区別なく修行していきます。 高野弘正先生は、「本当に剣道をしたいのであれば木刀による形稽古と竹刀稽古はどちらか一方やるのではなく、両方やりなさい。」と仰っていました。
本来、日本刀から木刀、そして竹刀と発展してきたその結果が現代の剣道につながっております。 そのため、いきなり竹刀から始めると本来の剣道とは似て非なるものになりがちです。これを本当のあるべき剣道に修正するのが木刀による組太刀稽古や刃引きを使っての形稽古です。
一刀流中西派は現代の竹刀剣道稽古法を開発した流派ですので、この組太刀、刃引きによる各形稽古を修行することで、まさしく現代剣道の原点を探ることができます。
また、経験者であればこの一刀流を修業することで自分の竹刀剣道にその理論をフィードバックすることにより、これまでとは違った本当の意味での剣道を感ずることがきっとできるでしょう。
●一刀流中西派稽古:
まず、ここでは当会での一刀流中西派の稽古法を説明します。
①古典に学ぶ:一刀流流祖の書き残された古典を研究します。 最初は意味は分からなくて結構です。素読から始めます。 中学生以上は古典の内容を研究していきます。古典を呼び水にして日本古来の歴史、伝統を学んでいき日本のすばらしさを再発見することで真の日本人になれるよう一緒に研究していきます。
②礼法を身に着ける: 日本古来から伝わる日本人としての礼法をしっかりと身に着けます。
③日本刀の操作を身につける。:模擬刀、真剣を使いその斬り下ろし方を身につけます。
この刀の感覚が身につかないと、木刀による斬り落としはできません。
④組太刀稽古: 一刀流中西派組太刀は以下の種類があります。これを一生かかって修行・研究していきます。特徴的なのは、日本剣道形のように寸止めするのではなく、手の内、刃筋をしっかり身に着けさせるべく「鬼ごて」という木刀の衝撃に耐えられる特製小手を用い、実際に木刀で打突します。 この時使う木刀も一刀流中西派特製のものを使用します。お互いに打撃しあいますので、日本剣道形の木刀より太いものを使用します。鍔も相打ちの衝撃でプラスチック製鍔は簡単に割れてしまい危険ですので必ず革鍔を使用します。
・組太刀(大太刀)56本
・組太刀(小太刀)5本
・組太刀(合小太刀)6本
計 67本の打太刀と仕太刀の裏表で134の形を覚えます。
一本目の「一ツ勝」の中の切り落とし技が一刀流の中心を流れる大切な事で、この切り落としができれば、一刀流中西派免許皆伝といわれているほど奥の深いものです。 かといって、この一つ勝ちだけをただ黙々と一生やっていてもその極意は身に付きません。 組太刀56本修練しまた初めに戻り稽古すると少し何かが改善されたかなというように、循環無端で奥義を求めてゆきます。
まさに「一刀より起こって万刀に化し、万刀一刀に帰す」という言葉の通り全てをやることで最初の基本がやっとできるようになるというものです。
初心者はまず、切り落とし三種(真、行、草)、摺り裏表、浮き裏表の基礎を十分にこなし、併行して組太刀大太刀)を一本目から五十六本目まで修行していきます。
まず、最初の三本を反復稽古します。
剣道を経験している人はその間合いに戸惑うと思いますので、間合いを勉強します。 また、木刀の振り方も剣道経験者はほとんど手元が落ちてから切っ先が遅れてついてくるいわゆる「押し切り」の悪癖がしみ込んでおりますので、これをまず初めに刀を使い手首の使い方を習得します。 打太刀が竹刀剣道の打ち方をする場合は切り落としは必要なくそのまま乗突きで対応すればよいという場合もあります。 また、仕太刀が押し切りで切り落とそうとすると、刀に当たる以前に自分の脳天を真っ二つに切断されてしまいます。居合をされている方は問題なく切り落とし稽古ができます。とにかく切っ先を速く振り込むことを修行します。・・・ここで、剣道経験者はご自分の竹刀剣道技術としての打ち方が格段に進歩していることに気づくことでしょう。いわゆる剣道八段位の打ち方を修得できるということになります。初心の人は素直な癖のない将来発展可能性を秘めた「斬り下ろし」の基礎を身に着けることができます。 竹刀剣道の場合は切り落としの打ち方だけでは不十分なので、手首を使ったコンパクトな冴えのある打ち方を別途修練します。
次に、五本目まで進みます。 この五本目までの技の中に一刀流中西派の基本技術の要素が全て含まれているのでこの五本をしっかり修練することが最初の段階となります。
さらに進んで、13本目の一ツ勝ちまで。 一本目の一ツ勝ちから13本目の反対足での一ツ勝ちまでをこなせば、ほぼ技術的には十分と言えます。
ここまで到達すればあとは本数を増やすばかりで、どんな他流派の相手が来てもよいように大多数の他流派の技を盛り込んでいますので、この56本をしっかり仕太刀として対応できれば、仮に他流派武士と斬り合いとなった時でも生き残れる確率が高くなるということになるのです。
まさに組太刀稽古は「生き残るためのすべ」だったのです。 この56本までこなせば、竹刀稽古で使う手の打ちは全て修得できます。現代剣道では使わなくなった体の動きもこなしますので、体のいろんな筋肉も駆使します。
ここまで来るとやっと、一刀流の極意の切り落としを真行草の三種、間合いを変化させながらどんな間合いでも切り落としができるようになります。
小太刀の11本では、日本剣道形小太刀の動き以上に複雑な動きをしますので一刀流小太刀ができれば日本剣道形小太刀はかなり楽に余裕をもってこなせます。日本剣道形にはこの一刀流の小太刀の形の原型が取り込まれていますので、一刀流を学ぶことでより深く日本剣道形の理合いや動きが理解できるようになります。
⑤五行:一刀流の極意技です。 この技は門外不出で宗家の許可なくして外部で演武はかないません。演武する際は必ず紋付き袴、白足袋にて厳かに演武します。 この極意ともいえる技を初心の早い段階で手順の稽古から始めます。これは、先代弘正宗家が言われるように「一刀流の極意技を早めに習得することでこの技を一生かかって修行してゆくという決意。さらには一刀流の誇りを持って一刀流をやっていると名乗るからには当然その極意技は自分の得意技になっていなければならない。」という考えのもとです。 最初は手順のみでも構いません。入門なるべく早い時期から五行を勉強していきます。
⑥刃引:これは形の名称です。 最終的には刃引きを使って稽古しますが最初は木刀を薄く削った薄刃と呼ばれる木刀で稽古します。 市販されていませんので、自分で市販の木刀を削って作ったりします。まとめて特注も考えます。
11本の裏表を修行します。 刀の鎬の使い方、手首の使い方を身に着けられます。
この形は日本刀の鎬の使い方と切り落としを徹底的に修練してゆくための形とも言えると思います。相手の刀を近い間で切り落とし、その切り落とした刀でそのまま相手の頭蓋を真っ二つに両断するところは圧巻です。
⑦払捨刀:伊藤一刀斎影久が蚊帳の中で襲撃されたときに編み出した技と伝えられています。その特殊な狭い環境下でも対応できるように編み出された形です。龍尾返しなど変わった技が出てきます。
さらに、沈み込みながら八相で小手を切る連続技は、足腰の鍛錬にもなります。道場何周でも回れますのでぜひ挑戦してください。きっと強靭な足腰を得られることでしょう。
⑧五点:妙剣、絶妙剣、真剣、金翅鳥王剣、独妙剣という技です。その名前が素晴らしく美しい技です。特に金翅鳥王剣は、インドの神話に登場する鳥類の王で羽を広げると四海をまたぎ、竜を常食するとされる鳥ガルーダをイメージした壮大な技です。
一刀流は技が豊富ですが、これらの技を学ぶことで始めて最初の一つ勝に見られる切り落としが上達していきます。 「一刀より起こって万刀に化し、万刀一刀に帰す。」といういわれのものです。
一つの技ばかりを突き詰めることも大切なことではありますが、急がば回れで、一旦中断し先へ進み多彩な技をこなしていく中で、最初の基本となる切り落とし技が少しづつ上達してゆくのです。最初は、手順を追い求め次第に理合いと細かな動作を勉強していくことが大切です。
一から始まり十へ進み、また元の其の一へと循環してゆくのです。 循環無端。
「一刀より起こって万刀に化し 万刀一刀に帰す」(一刀流)
ちなみに茶道の場合も同じこと。
「稽古とは一より習い十を知り 十よりかえるもとのその一」(千利休)